〈お知らせ〉札幌学院大学選書発刊

札幌学院大学選書 『ハイデガーの弁明—ハイデガー・ナチズム研究序説』が発刊されました

「札幌学院大学選書」は、本学教員が執筆した研究成果を広く社会に
広め、学術文化の発展に寄与することを目的に1989年より刊行されており、これまでに12冊の著書を世に送っています。
このたび、2008年度「札幌学院大学選書」として本学人文学部奥谷浩一教授が執筆した上記著書が刊行されました。

この新著、札幌学院大学選書 『ハイデガーの弁明—ハイデガー・ナチズム研究序説』(梓出版社 2009年4月)に関して奥谷教授から次のコメントをいただきました。

ドイツの哲学者ハイデガーはしばしば20世紀を代表する思想家として評価されている。そのハイデガーが1933年にフライブルク大学学長になったさいにナチに入党し、その後1年もたたずにこの職を辞任したことはよく知られた事実である。多くの人々は、政治に無知な哲学者が一時期はナチズムに共鳴したもののやがてその正体に気づいてこれと袂を分かったのだと考えていた。しかし、1980年代の終わりにファリアスとオットに
よって、ハイデガーのナチ関与が決して偶然的・一時的なものではなくて、持続的・必然的なものであったことがさまざまな資料の発掘から明らかにされ、世界に大きな衝撃を与えた。
多くの人々が思い違いをしたのは、ハイデガーが第二次世界大戦後の「弁明」のなかで自分とナチとの関係を最小限度のものであったように見せかけて、この戦略が成功したからである。彼は、さまざまな機会に行った「弁明」のなかで、真実を隠蔽・沈黙したり、意図的に虚偽を述べたり、一部の真実に虚偽をつなぎ合わせて歴史を書き換えるなどの作為を行い、そのためにこの「弁明」はハイデガーとナチズムの真の関係を歪める諸見解のたえざる源泉となってきた。だからそれは、アテネの法廷で死を賭してなお真実を述べてやまなかったあの高貴なソクラテスの弁明とはおよそ正反対の精神で貫かれている。
私がこの著書で行ったのは、ファリアスとオットの研究を踏まえながら、とりわけハイデガーの「弁明」のなかに含まれる真実と虚偽とを徹底的に解明することであった。さらにこの仕事と関連する諸問題として、「弁明」が定式化されることになった戦後の「ハイデガー裁判」の経過と結末、後にノーベル賞を受賞したすぐれた化学者シュタウディンガーをハイデガーが学長時代にあの悪名高いゲシュタポに密告した事件を取り上げた。いずれも上記の研究との重複をできるだけ避け、彼らが少ししか参照していないかまたは参照していない資料にもとづいて、論究することを心がけた。そして最後に、ハイデガー擁護論の側からの数少ない応答であるヴィエッタの著書を批判的に検討した。
私が知る限り、わが国にはこれまでハイデガー・ナチズムを取り上げた本格的な研究書はなかったように思う。本書がきっかけとなって、世界的な哲学者ハイデガーとおよそ600万人のユダヤ人を殺害したあのナチズムとが何ゆえに両立しえたのか、このナチズムと両立しえたハイデガーの哲学とはいったい何であったのかを改めて考える機会となれば、そしてそのことがハイデガーの哲学思想全体の再評価に結び付いていくことになれば、私としては望外の喜びである。

この書物は、前著『哲学的人間学の系譜』に引き続いて札幌学院大学選書から出版された私の二冊目の著書となる。出版助成の機会を二度までも与えていただいた学園に心より感謝したい。
  • 発行日: 2009年04月27日