経済情報論

第11回 時系列データの分析

例題1
第7回から第10回までは(重)回帰分析について考えてきました。これらの結果から系列相関の有無について調べたいと思います。次の問いにある例題や課題の結果からダービンワトソン比を求め、系列相関の有無を答えなさい。なお系列相関がある場合は正の系列相関、負の系列相関かも答えなさい。
(1) 第7回授業例題1(家計可処分所得と家計最終消費支出の回帰)
(2) 第9回授業例題1(物価上昇率と失業率についてフィリップス曲線)
(3) 第10回授業例題2の(1)(マクロのエンゲル係数)
解法
ダービンワトソン比と系列相関の見方については講義で説明しました。各結果表から答えれば以下のようになります。
解答の仕方

例題2
表1のデータは昭和55年から平成15年までの食費総額のマクロデータ(四半期データ)である。
(1) 1期前から6期前までのデータを昭和57年から出力させなさい。
(2) 縦軸(Y)に今期、横軸(X)に1期前として散布図を作成し、自己回帰分析結果を出力させなさい。
(3) 1期前から6期前までの自己相関係数を出力させなさい。
(4) 1期前から6期前までのコレログラムを作成しなさい。
(5) 食費のデータとして周期はいくつにしたらよいと思いますか?またその理由を述べなさい。
解法
(1)
完成図としては以下の表のような形にしたいと思います。例えば昭和57年の2期のデータは1期前が8.2ですから1期前のD列にはこの数字が入ります。このように右ななめ下に同じ数字が出力されるようにします。

そのために
食費総額のデータをコピーし、次のように貼り付けていきます。

分析に必要なデータは57年の1期から最新のデータまでなのでいらない行は削除します。
上側の削除


下側の削除


(2)原系列のC列を「Y」,1期前のD列を「X」に指定して散布図を描きます。
オプションで回帰式と決定係数を出力させましょう。
回帰式は自己回帰分析の場合、XとXt-kの関係(k:データのずれ)をあらわし、回帰式を
=α+βXt-k

と表します。よって回帰式を以下のように描き直しましょう。

(3)エクセル統計や分析ツールで相関行列を計算します。
計算方法はこちら
その結果、

以下の部分が原系列との相関係数が出力されています。これを答えていきます。
(4)(3)で求めた相関係数の折れ線グラフを作成します。

グラフ作成には縦軸は1までに設定しなおしてください。
(5)(4)のコレログラムは周期的なデータでなければ単調減少していきます。この図では4期前が1にとかくなっています。これは周期が4のデータであることを明示しています。4半期データなので周期が4という結果はナットクのいく結果ですね。
解答の仕方
周期は4 理由;コレログラムを作成したところ、4期前との相関が高いため

例題3
表2は1995年から2004年までの月別海外旅行出国者の推移を表したデータである。
(1)    横軸に年月、縦軸に海外旅行出国者として折れ線グラフを作成しなさい。
(2)    前月比を計算しなさい。
(3)    前年同月比を計算して、折れ線グラフを作成しなさい。
(4)    期別平均法により期別指数を求め、出国者の季節変動についてまとめなさい。
(5)    EPA法により時系列解析を行いなさい。
(6)    (5)の結果からTC値のグラフを作成し、近年の動向についてまとめなさい。
(7)    (5)の結果からS値のグラフを作成し、季節変動の大きさの移り変わりについてまとめなさい。
(8)    (5)の結果からI値のグラフを作成し、特筆すべきことがあれば述べなさい。
解法
(1)
出国者数のデータである「C列」の値を範囲としてグラフウィザードで折れ線グラフを選択します。


項目軸にはA列のデータを指定すると年が表示されます。
「項目軸の書式設定」の「目盛」で目盛間隔を「12」と設定すれば目盛が1年ごとに表示されます。
「目盛ラベルの間隔」を「24」とすれば2年ごとに年数が表示されます。

(2)前月比は  

で求まります。たとえば1995年2月の値は

となります。よってセル「D4」に
=C4/C3−1


と入力します。この関数を他のD列に貼り付ければ前月比が計算されます。
前月比は最初の1個は計算できません。

(3)前年同月比は
   
で求まります。たとえば1995年2月の値は

となります。よってセル「E15」に
=C15/C3−1

と入力します。この関数を他のD列に貼り付ければ前年同月比が計算されます。
前年同月比は最初の12個は計算できません。
このデータを用いて折れ線グラフを作成すると以下のようになります。

(4)「エクセル統計」⇒「時系列解析」⇒「期別平均法」として以下のダイアログボックスを出力させます。


「データ入力範囲」には出国者数のデータである「C列」を指定します。
「1周期のデータの個数」には1年(12ヶ月)がひとつの周期なので「12」と入力してください。
「OK」を押します。すると以下のワークシートが作成されます。

ワークシートの結果で重要なのは期別指数のグラフです。このグラフから季節変動の動向について考察します。以下が考察の概要です。

期別指数が高くなっているのはデータが高めに出てくる期(月)です。このグラフを見ると8月に大きなピークがあり、3月にも小さなピークがあります。よって海外旅行の出国者のピークは8月と3月と考えられます。また最も小さい値は4月であるため、4月は最も海外旅行に行かないということがわかります。
海外旅行にいく場合はある程度長めの旅程となる場合が多いと思います。
8月にピークとなるのはこの時期は長期の休み(夏季休暇やお盆休みなど)があるため、海外旅行に行きやすいため、海外旅行の旅程が組みやすいという原因により需要が高まっていると考えられます。
3月は特に大学生が影響を及ぼしていると思われます。この時期は大学生は春休みで長期の休みがありますし、卒業旅行などで海外旅行の需要も高まります。これらが原因で海外旅行のピークを迎えていると考えられます。
日本の場合、新年度は4月から始まるという風習になっています。このため、4月は仕事や学校も忙しい時期です。この時期に長期の休みを取ることは難しいため、海外旅行者も少ないと思われます。
これらを以下のようにまとめてみましょう。
解答の仕方
期別平均法により各月の期別指数を計算したところ8月に大きなピークがあり、3月にも小さいながらもピークを迎える。8月がピークとなっている理由は夏季休暇やお盆休みなど長期の休みが取りやすいため、海外旅行の需要が高いと考えられる。また3月は学生が春休みのため需要があるため高くなっていると思われる。最も低いのは4月であった。これは新年度の始まりで仕事や学校が忙しくなっているためと思われる。この結果海外旅行者の季節変動は8月と3月にピークを迎えることがわかった。
(5)「エクセル統計」⇒「時系列解析」⇒「期別平均法」として以下のダイアログボックスを出力させます。



「データ入力範囲」には出国者数のデータである「C列」を指定します。
「周期」には1年(12ヶ月)がひとつの周期なので「12」にチェックします。
開始時期には最初の年月を入力します。1995年1月からのデータなので「1995」、「1」を入力します。
「関数式の当てはめと予測」は将来の予測を行います。例えば1年分予測してみましょう。「予測年数」を「1」とします。
「OK」を押します。すると以下のワークシートが作成されます。

この問題以降は(5)の結果からあたらにグラフを作成し、グラフから近年の推移を答える問題になっています。海外旅行者数に影響があるものとして考えられるものは、現在の経済状況や海外旅行のいきやすさ、海外情勢などが大きく影響します。ここで旅行出国者に影響を及ぼしたであろう近年の出来事をまとめましょう。

2001年 9月 アメリカ同時多発テロ
2003年 3月 イラク戦争
2003年 SARS

このような時期には海外旅行は敬遠され、旅行には行かなくなるものです。以降の分析結果でもこの点に注目していきましょう。


(6)グラフは(5)の「D列」のデータを用いて作成します。

TCI値の値は季節変動を取り除いた季節調整値です。この値から近年の出国者の動向が見られます。動向を考える場合には出国者に影響を与えそうな出来事などを考えながら答えていきます。

以下が考察の概要です。
1995年から2001年ごろまでは上昇傾向にある。
2001年の後半は旅行者が減っている。(原因はアメリカ同時多発テロ)、
2002年は数値が持ち直している
2003年は前半が減っている(原因はイラク戦争とSARS)が、後半は持ち直している

これから以下のようにまとめるとよいでしょう。
解答の仕方
TCI値により近年の動向をみると、1995年から2001年の前半までは堅調な伸びを示している。しかし2001年9月に起こったアメリカ同時多発テロや2003年に起こったイラク戦争の影響によって一時的に旅行者が減少している。ただし、そのような事件後半年後には回復してきている。現在の社会情勢が突発的な事件が起こらない限り、2001年度の旅行者数まで回復することが見込まれる。
(7)グラフは(5)の「D列」のデータを用いて作成します。

S値の値は季節変動の指数を表しています。この値から近年の季節変動の動向が見られます。動向を考える場合には波形をみて、同じような波形になっているか、ふり幅の大きさは変化しているかなどを見ながら考えます。。

以下が考察の概要です。
1995年から2001年ごろまでは波形もふり幅も同じ。
2002年からふり幅が大きくなっている⇒季節変動が大きくなっている
波形は2002年から若干変化している。⇒季節変動が少し変わっている
これから以下のようにまとめるとよいでしょう。
解答の仕方
S値により季節変動の動向をみると、1995年から2001年の前半までは波形やふり幅が同じであるため、季節による影響は変わりないと思われる。2002年以降は波形が若干変化し、不利幅も大きくなっている。このことから海外情勢の悪化から季節変動が少し変化し、季節変動も大きくなっていることが伺える。
(8)グラフは(5)の「D列」のデータを用いて作成します。

I値の値は不規則変動の指数を表しています。この値から近年の海外旅行に影響を与えている外的要因の動向が見られます。動向を考える場合にはふり幅が大きい時期には何らかの誤差変動を与える事柄が起こっています。

以下が考察の概要です。
2001年9月に小さな値⇒アメリカテロの影響
2003年3月に小さな値⇒イラク戦争の影響

解答の仕方
I値により不規則変動の動向をみると、2001年9月と2003年3月に小さな値となっていて、その前後でふり幅が大きくなっている。この時期にはアメリカ同時多発テロ、イラク戦争があったため、これらの事柄が海外旅行者に大きな影響を与えたものと思われる。


課題1
表3のデータは2003年3月から2004年6月までの日経平均株価(週間)のデータである。
(1) 1期前から8期前までのデータを2003年5月から出力させなさい。
(2) 縦軸(Y)に今期、横軸(X)に1期前として散布図を作成し、自己回帰分析結果を出力させなさい。
(3) 1期前から8期前までの自己相関係数を出力させなさい。
(4) 1期前から8期前までのコレログラムを作成しなさい。
(5) 日経平均株価には周期はあるとおもいますか?あるとしたらいくつにしたらよいと思いますか?

課題2
表4は1993年から2004年までの月別ビール課税移出数量(KL)(ビール酒造組合)の推移を表したデータである。
(1) 横軸に年月、縦軸にビール課税移出数量(KL)として縦棒のグラフを作成しなさい。
(2) 前月比を計算しなさい。
(3) 前年同月比を計算して、折れ線グラフを作成しなさい。
(4) 期別平均法により期別指数を求め、移出数量の季節変動についてまとめなさい。
(5) EPA法により時系列解析を行いなさい。
(6) (5)の結果からTC値のグラフを作成し、近年の動向についてまとめなさい。
(7) (5)の結果からS値のグラフを作成し、季節変動の大きさの移り変わりについてまとめなさい。
(8) (5)の結果からI値のグラフを作成し、特筆すべきことがあれば述べなさい。


山田のつぶやき

(課題2の参考に)


A「いや〜、やっぱり夏はビールだね。暑いもん」
B「そうだね。でも飲み会の乾杯といえばビールだよね。1年通して欠かせないよ」
A「飲み会といえば去年の12月は忘年会続きで疲れたよ。」

ビールを飲みながら話はさらに続く

B「ところで最近家ではビール?」
A「いや、最近は発泡酒だよ。ビールとも味は変わらないし、安いのがいいよね」
B「ぼくもそうだよ。お客さんが来たときは見栄を張ってビールを出すけどね。」
A「ところで発泡酒っていつから発売されてるか知ってる?」
B「1994年って何かで見たな」
A「じゃあ発売されたときってビールの売り上げにも影響があったんだろうね。」
B「そうだと思うよ。不規則変動のグラフを見れば何かわかるんじゃないかな?」
A「あとビールの売り上げに影響しているのは他にあるの?」
B「価格が変わるときはだいたい影響するよ。価格といえば消費税にも影響するんだよ。消費税が5%になったのは1997年だったよね。こんな時期にも普段とは違う消費行動が原因で不規則変動が大きなふり幅を持つことがあるんだよ。」