経済学科

【経済学科】経済学特別講義A(12月5日:第11回)

2014.12.19

お知らせ
経済学特別講義A(12月5日:第11回)
12月5日(金)の経済学特別講義(A)(3講時(13時10分から14時40分))において,北洋銀行 国際部副部長の矢嶋 洋一氏がゲストスピーカーとして講義をされました.
 
講義題目は,「海外展開支援と金融サポート」でありました.本講義では,企業(具体的には,北海道の企業)が海外(中国や東南アジアなど)において事業を展開する際に,金融機関としての銀行がいかなる支援を行っているのか,あるいは,その展開にどのように関わっているのかについて,中国や東南アジアなどの事例を踏まえ,またご自身の体験を交え,爽やかに,かつ,リズミカルに講義をされました.15枚ほどの報告スライド等に基づき,民間企業の海外展開を進める際に金融機関としての銀行が提供しているサポートとその金融サービスについて,分かりやすく解説しました.
 
経歴は1986年北海道拓殖銀行に入行後,北京への語学研修・海外経済協力基金への出向を経て,その後,北洋銀行に転籍しました.2005年に北洋銀行初の海外拠点である大連駐在員事務所所長に就任致しました.3年半の駐在ののち,2008年に帰国以降は,一貫して国際部の仕事に携わり,アジアを中心に取引先企業の海外展開事業に関わってきています,と簡単に自己紹介され講義に入られました.次の(1)から(6)に要約される内容で講義を展開されました:
 
(1) 銀行は,民間企業が海外の企業と取引を行ったり,海外に進出したりする際に必要となる情報の提供を通じて,その企業が海外展開で遭遇する(被る)リスクをできる限り小さくし,かつ,事業展開のチャンスをできるだけ大きくするように民間企業をサポートしています.例えば,海外で企業がビジネスを行う際に,避けて通れないその国の法令等の基本情報を企業に提供する,企業の潜在的ニーズが何処にあるかを把握し,個別に必要な情報を提供する,現地視察時の訪問先のアレンジや商談サポートなどの支援により,現地状況の理解を深める,あるいは,現地で商談会を開催し,商談の機会を提供する,などによって民間企業の海外展開事業をサポートしています.勿論,後に詳細に説明します本業としての金融サービスも提供いたします.
 
(2) 海外で取引を行う際に,生じるリスクを進出企業は事前にリスト・アップしておく必要があります.
第1は,進出しようとしている国のリスク(カントリーリスク)です.例えば,中国に進出し事業を展開しようとする企業には政治的なリスクがあります.又,貿易品目の規制,法令の解釈が担当によって異なることや,小売店への出店時の棚代などの商習慣も一種のカントリーリスクです.
第2は,為替リスクです.輸出入の決済を外貨で行う時には,為替レートの変動による為替リスクが生じます.取引決済通貨を何にするかによって,為替リスクが異なります.例えば,日本から海外に商品を輸出する場合を考えてみると相手国(あるいは第三国)の通貨で取引を決済すると輸出代金として受取ったその外貨を自国通貨の日本円に換える必要があります.外国通貨を売って日本円に換えると為替レ-トの変動により手にする自国通貨の日本円の金額が売買契約を締結した当初の期待値より少なくなることがあります.このような為替リスクをヘッジをするために為替予約や外貨預金を利用する方法があります.また,円建で取引したとしても為替リスクがなくなるわけではありません.実例として,中国との貿易で円建で商品を輸入するときには輸出する中国企業は中国元を日本円に両替するときのリスクや手数料等をその商品の価格に上乗せして提示してきますので,円建での取引でも日本の企業は商品代金の中で中国側の為替リスクを負担していることになります.そうなると為替リスクを過大に評価して日本円での決済に固執するより,現地通貨での決済を許容し為替リスク分の商品代金の値引きを求める方が商品を安く仕入れることができる場合があります.
第3は,代金決済リスクです.まず,相手先が代金を支払う能力があるかという信用リスクです.信用リスクを回避するには,海外現地で信用のおける機関や企業から信用のおける企業を紹介してもらう方法が有効です.海外の輸入者の倒産などに対しては,貿易保険を付保することで回避する方法もあります.
また,代金の支払方法が前払いか後払いかによって,資金回収リスクや商品未着リスクが生じ,これも代金決済リスクです.例えば,輸入者に代金を全額前払いさせれば,輸出者の資金回収リスクはなくなります.しかし,輸入者からみれば,代金は支払ったのに商品を受け取れないという商品未着リスクが発生します.契約は輸出者と輸入者の力関係によりますが,全額前払いや全額後払いで取引を行うことは難しいので,多くの場合,代金決済は前払い(例えば,70%を前払いする)と後払い(例えば,船積書類が到着したら残り30%を支払う)の組み合わせによって行われます.
また,輸出入取引に関しては,輸入者と輸出者間の費用(主要輸送費用や保険料や配送費用など)負担区分やリスクの移転時期を定めるインコタームズ(Incoterms:貿易条件)と呼ばれる国際ルールがあり,そのインコタームズのどの貿易条件で商品の輸出をするかによりリスクの移転時期が異なります.
 
(3) 貿易取引の流れ
貿易取引の流れをスライドで提示し,この図を使って貿易取引には,(1)書類の流れ,(2)商品の流れ,(3)資金の流れの3つがあること,全額前払い条件と信用状(L/C)決済条件の書類・商品・資金の流れをそれぞれ説明しました.
経済学特別講義A(12月5日:第11回)
(4) 代金決済方法には,(1)外国送金(前払送金と後払送金),(2)信用状取引,(3)引受渡し(D/A)あるいは支払渡し(D/P)の3種類の方法があります.最初に,外国送金による代金決済,次に信用状による代金決済について説明しました.信用状取引では,信用状は輸入者から依頼を受けた輸入者の取引銀行が,商品代金の受取人である輸出者に対して,輸出者が信用状条件どおりの書類を呈示することを条件に,輸入者に代って代金の支払いを確約した保証状です.信用状発行銀行にとっては,信用状の発行は信用状の発行依頼人である輸入者に対する与信取引になります.輸出者からみると,信用状が発行できるということは輸入者が銀行に信用があるかどうかの判断材料となるため,初めて取引する場合には相手に信用状取引を求める場合があります.信用状取引により銀行が輸出入者の間に入り代金決済を行うことによって貿易取引がスム-ズに行われます.信用状取引では,輸出者は代金回収リスクを小さくでき,輸入者は取引銀行の信用をバックに代金前払いを回避できる等,輸出者,輸入者の双方にメリットがある仕組みです.
忘れてはいけないのは,信用状取引の原則として独立抽象性の原則,書類取引の原則があるということです. これは貨物が売買契約と違うとしても(商品に不足・欠陥等があったとしても),信用状条件どおりの書類が呈示されれば支払いを拒めません.信用状発行銀行は代金の決済を行い,他方で,輸入者に輸入代金の決済を請求します.
D/P(支払渡し),D/A(引受渡し)は信用状なしの決済方法で,輸出者が輸入者を支払人として振出した為替手形に船積書類を添付したものを輸出者の取引銀行(仕向銀行)を経由して輸入者の取引銀行(取立銀行)に送付いたします.取立銀行が輸入者から手形代金を取立てし仕向銀行に取立代り金を送金.仕向銀行は取立代り金を輸出者に支払うという仕組みです.また,取立代金の支払いを条件に取立銀行が船積書類を輸入者に引渡す条件を支払渡し(D/P:Documents against Payment),輸入者による為替手形の引受(手形期日における支払を確約)を条件に取立銀行が船積書類を輸入者に引渡す条件を引受渡し(D/A:Documents against acceptance)といいます.
 
(5) 海外における資金調達
海外に進出した企業が,資金調達を行う方法としては,以下の方法があります.(1) 増資(手続きに時間がかかる),(2) 親会社からの借り入れ(親子ローン),(3)現地金融機関からの外部借り入れ,(4)リースやファクタリングについて,簡潔に説明されました.外部借り入れでは,現地金融機関からの直接借り入れと,スタンドバイL/C(信用状)を利用した方法があります.
 
(6) スタンドバイL/C方式による資金調達
海外現地法人が現地の銀行から融資を受けようとする場合,日本国内の親会社の取引銀行の信用を利用して現地の銀行から融資を受けるという資金調達の方法です.海外現地法人が現地の金融機関に直接融資を申し込んでも,会社の規模が小さく信用力が弱いと借入れすることが難しいのが実態です.このため,信用力のある親会社が日本の取引銀行(例えば,北洋銀行)に現地銀行に対してスタンドバイL/Cを発行するよう依頼します.現地銀行は日本の銀行のスタンドバイL/Cの保証に基づき,現地法人に現地通貨建てで融資を実行します.
具体的な例として,北洋銀行が提携しているバンコック銀行を利用して現地法人への融資を実行した事例を説明します.札幌市に本社のあるカネジン食品株式会社(製麺業)から,バンコックにある現地法人Kanezin Japan(Thailand)が借入れするために信用状を発行して欲しいという依頼がありました.北洋銀行では,提携銀行であるバンコック銀行にスタンドバイL/Cを発行し,現地法人Kanezin Japan(Thailand)の資金調達を支援しました.
『スタンド・バイL/Cとは日本の銀行(例えば北洋銀行)が現地の金融機関(融資をする銀行)に対してその返済についての保証を信用状の形式で発行する保証状です.借主である海外現地法人が返済期日に支払不能になった場合は,現地の融資を実行した金融機関は,その信用状の発行銀行である親会社の取引銀行(例えば北洋銀行)に返済を求めることができる旨の規定がスタンドバイL/Cに入っています.』
北洋銀行は,タイ国内で最大の銀行であるバンコック銀行のような現地の提携先銀行を通して,海外進出企業を支援しています.海外の提携銀行としては,バンコク銀行のほか,大連銀行(中国),インドステイト銀行,バンクネガラインドネシア銀行,メトロポリタン銀行(フィリピン),ベトコム銀行などがあります.大連,上海,バンコク計3箇所に北洋銀行の駐在員事務所があり,ロシア,タイ,シンガポールに職員を派遣しており,海外展開支援を行っている旨,簡潔に説明され,講義を終えられました.
 
 
質疑応答では,次のQ1からQ5の質問に対して,明快に,かつ,簡潔に答えられました:
Q1 外国為替を取り扱う銀行がどれほどありますか.
A1 メガバンク,地方銀行,信用金庫,ゆうちょ銀行等多数の銀行が取り扱っています.
 
Q2 企業が進出を計画している国で有望な国は何処ですか.
A2 ASEAN諸国への関心が高くなっています.ただ,中国は大きなマーケットであり,中国国内への販売には大きな可能性があります.例えば,去る11月に開催された中国大連におけるビジネス商談会には,日本の地方銀行が17行,日本企業が約130社参加し,活発な商談が行われました.中国の経済発展に伴い拡大する国内消費は無視できない市場であります.生産拠点としては,ベトナムやインドネシアも人気があります.カンボジアやミャンマーはまだリスクが高いと思います.
 
Q3海外での企業利益は日本国内に環流してきていますか.
A3 日本企業(子会社)が海外で生み出す利益は,当然日本に持ち帰ることができます.但し,海外の価格を低くし,国内で高い価格を設定するような価格操作は移転価格税制の規制から難しくなっています.あくまで,本社機能が国内にあれば,正当な収益は日本にも還元されることになります.
 
Q4 スタンドバイ信用状の保証料は何%で,タイの金利は何%ですか.信用状は為替変動が生じる場合,保証額はその変動の影響を受けるのでしょうか.
A4 北洋銀行の場合,その保証料は0.1%程度です.タイの金利は短期でおよそ3~6%程度であります.信用状に記載されている通貨で支払うことになるので,現地法人は現地通貨建てで借入れすれば,為替リスクを負担せずに済みます.もしスタンドバイL/Cの記載内容を変更する場合には,依頼人は銀行に手数料を払って金額などの変更を行うことができます.これをアメンドメントといいます.
 
Q5 ソフトウェアの取引は現金送金あるいは信用状取引ですか.
A5 送金決済になります.契約書に基づいて,ソフト代金や設計料などを送金で決済します.貨物の運搬がないので,信用状を使うことはありません.
 
 
講師をお引き受けして頂きました北洋銀行 国際部副部長の矢嶋 洋一様には深く感謝致します.
 
経済学部 久保田 義弘
  • 発行日: 2014.12.19