心の手帳 35号(2011年6月)

ほんの少し晴れやかな気分になる季節

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  春・夏・秋・冬。4つの季節のうち、どの季節が一番好きですか?
 最近はだんだんと気温が上がってきました。半袖で過ごすのが大変気持ちい今日この頃です。この原稿を書いている時は暑かったり寒かったりでちょっと身体が大変な時期ですが、発刊される時には暑い日が続いているんでしょうね。夏は暑いからこそ夏なんだと思いますが、ムシムシすた暑さはどうしても好きになれません。だけど、カラッとした暑さは私、大好きなんです。不思議ですが、ほんの少し晴れやかな気分になります。
 私は夏が大好きです。  

「深く知ることと」と「やさしく理解すること」

村澤 和多里 〔心理臨床センター研究員・臨床心理学研究科准教授(臨床心理士)〕
  昔良く聞いた曲に、テレンス・トレント・ダービーというアーティストの“To know someone deeply is know someone softy"という曲があります。
 「誰かを深く知ることは、誰かを優しく理解すること」というような意味です。20代の私は、「深く知ること」と「やさしく理解すること」がイコールになっていることが今一つ理解できずにいましたが、それでもなんとなくこの曲を気に入っていました。

 臨床心理学を学ぶ始めていた私にとって、人の心の奥を知ってしまうことは「パンドラの匣」を開けてしまうように、恐れ多いことでもありました。私は、何とか相手を理解しようを思い、たくさんの理論書を読みましたが、読めば読むほど“頭”で理解することに傾き、“心”で理解することからは遠ざかっていったように思います。結局、頭で相手の事を分かったつもりになったけれど、「深く知ること」も「やさしく理解すること」も出来ないままだったと思います

 でも最近になって、この曲の意味が少しわかったような気がしました。ここ数年、私はいわゆる「ひきこもり」と呼ばれる若者達と多くの時間を過ごしてきました。はじめ私は「なぜこの若者たちは動けないのだろう?」とか「どうしたら動けるようになるのだろう?」などということを考えながら接していました。頭で理解しようと思っていたのです。でも、長い時間を過ごし、一緒に笑ったり食べたりする中で「○○さんはこんなマンガが好きなんだろうな」とか「このお店、△△さんに教えたあげたいな」という気持ちが強くわいてくるようになりました。相手のことを少し深く理解できるようになってきたように思います。  誰かに○○してあげたいとか、さみしい思いをしているんじゃないかと、その人の気持ちを想像すること、それが「やさしく理解すること」なのではないかと思うようになりました。

 ここまで書いて、これって偉大な精神医学者ハリー・スタック・サリヴァンの言っていることじゃん!と気がつきました。少しでも近づけたかなぁ?

実習生(大学院生)のつぶやき

 高校生の時、私は格闘技に励んでおりました。朝起きて一時間のランニングをし、時間を見つけては練習場へ行きトレーニングに励むというような生徒でした。尊敬する先輩方からは多くを学び、後輩たちには多くを伝え、同期の仲間達とインターハイ優勝を目指し切磋琢磨したことはいい思い出です。

  名門と言う事もあり、指導で有名な先生がいらっしゃいました。大変ユーモアのある先生でありましたが、多くは語らない先生でした。そんな先生から技術的な指導を受けたのはおそらく入部して3ヶ月だけであったと思います。基礎的なもののみで、構えとフットワークの仕方、打ち方のたった三つだけを教わりました。   この三つだけのメニューをこなす毎日の練習はとても退屈なものでした。「ガードを下げるな」「あごを引け」等と毎日毎日同じことを言われ続けていたように思います。その頃の私は基礎が大事ということが全く理解できませんでした。たった三つの事を先生の下で指導を受けただけでしたが、私達は大会に出るたびに優勝旗を持ちかえり、インターハイに何名も出場するような世代に育っていました。

  私が格闘技から学んだことは、直向に取り組むという事と、基礎を大切にすると言う事です。基礎を学ぶ事が強くなる事、上達することの近道であると言う事を体験的に学びました。基礎を学ぶ事こそが土台作りであり、土台がしっかりしていればその上に積み重なるものは多くなっていくのだと感じたものです。私は再度土台作りの真っただ中におります。格闘技と同様、あらゆることに対して素直に直向に土台作りをし、多くを積み重ね、育っていきたいものです。
(T.S.)
イラスト:ふわふわ。り
挿絵