心の手帳 44号(2014年6月)

北海道の初夏

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 長く寒い冬が明けて、ようやく衣替えが出来るような春らしい陽気になり、桜も咲いたなぁと思っていたら、あっという間に夏のような日差しが照りつけ、汗ばむことが多くなりました。
 太陽の光を浴びて活き活き伸びる緑の葉を見ると、その鮮やかさにこちらにも元気を分けてもらえるような気になります。
 またセミが夏を告げるようにジリジリと鳴き、さらに暑さを増しているのではないかと思ってしまいます。
 それでも日が沈む頃にはひんやりとした空気が吹いて、心地よさを感じます。
 夜になれば、カエルがケロケロと大合唱を始めて、涼やかな空気に音の彩りを添えてくれます。
 北海道の初夏は五感を刺激してくれる、そんな豊かな季節なのかもしれません。

親友のこと

村澤 和多里〔心理臨床センター研究員・臨床心理学科教員(臨床心理士)〕
 20年ほど前、北海道のある大学に2人の男の子と、2人の女の子がいました。

 ある時、男の子2人は、ミシェル・フーコーという哲学者についての勉強会を開きました。 そこに女の子が2人加わり、4人の交友が始まりました。その後交友は続きましたが、最後まで、残念ながら(?)ロマンスは育まれませんでした。

 それぞれには別に恋人がいましたが、4人で朝まで語り明かしたりすることもた度々ありました。面白いことに、料理が得意なのは男の友人で、安い素材を駆使して美味しい料理をふるまってくれました。

 4人はそろって留年しました。卒業の年は就職がとても厳しい時期で、一人の女の子はある会社から内定をもらったのですが、その直後にその会社は倒産してしまいました。でも、幸運なことにその女の子はその後とても有名な出版社に入ることが出来ました。
 もう一人の女の子は新しくできた「新国立劇場」に勤めることになりました。しかし、その後「庭師」の修業をし、今は女性の庭師として活躍してまいます。
 そして男の子の一人は心理学者になりました。
 もう一人の男の子は、哲学の道を志しましたが、その大学の学問的姿勢に失望し、結局は東京の工事現場を転々とする生活に入りました。その後、コンピュータ学校の講師や、日本語講師、タイの短大の客員日本語教師などを勤めていましたが、ある時から消息が途絶えてしまいました。

 最近になって、出版社に勤めた女の子から心理学者にメールが届きました。心理学者の師匠の本の出版に、担当編集者として関わるのだということです。
 そして、そのメールには、彼女が現代舞踊の公演を見に行ったところ、消息不明だった男の子に偶然出会ったと書いてありました。女の子からの連絡で、心理学者になった男の子も旧友と連絡を取ることができました。しばらくぶりに旧友から届いたメールにはこう書いてありました。

 「君が学生の頃に話していたワロンの発達心理学を読んでみたよ。今は舞踏に関心を持っているけれど、身体性について君の言っていたことがわかった気がする。」
 そのメールを読んで、何年も会うことができなくても、自分と同じことを考え続けていたんだなと、もう男の子ではない心理学者は思いました。

実習生(大学院生)のつぶやき

  私のカバンにはいつもストールが入っています。
  水色をしたそれは、私自身入れていることも忘れてしまうくらいなのですが、日中の強い日差しにさらされていた時、夜に肌寒さを感じた時、日差しや寒さからストールは私を守ってくれます。
  自分だけでなく、他の誰かが寒がっていたりしたときに、「これ、使って」と貸すこともできたりして…。自分のために、誰かのために、それを使うことができたときに、入れておいて良かったと自分を褒めてあげたくなったりもします。
  普段はその存在を主張しないけれど、ふとしたときに、そっと力になる。誰かのそんな存在になれたらなと思いながら、日々過ごしています。
(T.O.)
 
 
イラスト:ふわふわ。り 
挿絵